文楽 仮名手本忠臣蔵 九段目で思うこと

文楽 仮名手本忠臣蔵
九段目 山科閑居の段

加古川本蔵のセリフです。

「忠義にならでは捨てぬ命。
子ゆゑに捨つる親心。」

イヤホンガイドでは、私は子供の為に、
命を捨てようとしている、その切ない心を
わかって欲しい、忠義以上に大切なものが
あるという人間の本心を作者は描いていると
イヤホンガイドでは解説していました。

大星由良助と加古川本蔵。
どちらも短慮な主君に仕え。
方や見事に主君の仇を取った。
方や独断の賄賂により主君を救った。
勿論、大星由良助は忠義を貫きました。
しかし、主君を欺き賄賂を送ることに
よって主君を救った加古川本蔵のやり方も
私は忠義であるのだと思います。
この段で由良助と本蔵は忠義とは何か?
ということについてお互いに相手の忠義を
理解していたのではないのかと思うのです。
結果は、加古川本蔵は子供の為に命を落とし
大星由良助はこの後に忠義の為に命を落とす。加古川本蔵は信念を持って主君を救った。
しかし、主君も含め周りからはそのことに
ついて叱責されたという悲哀を感じますが、本人は信念に基づいての行動ですから、
気にはしていなかったでしょう。ただ、
大星由良助だけはそれを理解してくれていた。そして子供の為に死ねる。
加古川本蔵は最後には救われたのだと思います。


主人の鬱憤晴らさんとこの程の心遣ひ、
遊所の出会ひに気をゆるませ、
徒党の人数は揃ひつらん。
思へば貴殿の身の上は
この本蔵が身にあるべきはず。
当春鶴が岡造営のみぎり、
主人桃井若狭若狭助、
高師直に恥ぢしめられ、
以てのほか御憤り。
某を密かに召され、
まつかうかうの物語。
明日御殿にて出くはせ一刀に討ち留むるとの
コレ思ひ詰めたる御顔色。
止めても止まらぬ若気の短慮。
小身ぬゑに師直に、
賄賂薄きを根に持つて
恥ぢしめたると知つたるゆゑ、
主人に知らせず不相応の金銀衣服台の物、
師直に持参して心にそまぬへつらひも、
主人を大事と存するから。
賄賂果せあつちから謝つて出たゆゑに、
斬るに斬られぬ拍子抜け。
主人が恨みもさらりと晴れ、
相手代はつて塩治殿の難儀と
なりしは即ちその日。
あいて死なずは切腹にも及ぶまじと、
抱き止めたは思ひ過ごした本蔵が
一生の誤りは娘が難儀と、
白髪のこの首、婿殿に進ぜたさ。
女房、娘を先へ上し、
媚びへつらひしを身の科に御暇を願うてな、
コリヤ道を変えて
そちたちより二日前に京着。
若い折の遊芸が役にたつた四日の内、
こなたの所存を見抜いた本蔵、
手にかかれば恨みを晴れ、
約束通りこの娘、
力弥に添はせて下さらば
未来永劫御恩は忘れぬ。
コレ手を合はして頼み入る。
忠義にならでは捨てぬ命。
子ゆゑに捨つる親心。
コレコレ推量あれ由良助殿
と言ふも涙に咽返れば

 

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